「手放せば楽になる」が、苦しさを生むとき

最近よく聞く「手放そう」という言葉。
人間関係も、思考も、執着も、とにかく手放せば軽くなる…そんな空気を感じることがあります。
けれど実は、この言葉が独り歩きすると、かえって人を苦しめてしまうことがあるのです。
なぜなら──手放したほうがいいものは、人によって違うから。
そしてもっと言えば、そもそも「持っていないもの」は、手放せないのです。
生きづらさは「量」ではなく「ねじれ」
心理学的に見ても、人のしんどさは「多い・少ない」そのものより、今の状態と、やっていることがズレているとき
に強くなります。
これを、ここでは心のねじれと呼びます。
①持ちすぎて生きづらい人(すでに“背負える力”を持っている人)
このタイプの人は、もともと
- 感じ取る力がある
- 考える力がある
- 人や場を支える力がある
だからこそ、気づかないうちに持たなくていいものまで、自然に持ってしまう人です。
心の中で起きていること
- 「私がやらないと回らない」
- 「ここで私が崩れたら、誰かが困る」
- 「ちゃんとしていたほうが、安心される」
こうした思考は、弱さではなく過去に何度も役に立ってきた“生存戦略”でもあります。
ただ、その戦略が長く続きすぎると──
- 感情を感じる前に処理する
- 休む前に整えようとする
- 頼る前に自分で抱える
という形になりやすくなります。
生きづらさの正体
この人の苦しさは、「足りない」からではありません。
すでに十分持っているのに、降ろす許可を自分に出していないこと。
だから手放しが起きるとき、人生が静かに楽になります。
- 背負っていた役割を一部降ろす
- 他人の感情を自分の責任にしない
- ちゃんとし続けなくてもいい時間を持つ
これは“逃げ”ではなく、成熟した調整です。
②持たなすぎて生きづらい人(まだ“持つ経験”が十分に育っていない人)
こちらのタイプは、少し見えにくいかもしれません。
なぜなら一見、
- 物分かりがよく
- 執着がなく
- 争わない人
に見えることが多いからです。
でも内側では、こんなことが起きています。
心の中で起きていること
- 「欲しいと言うのは、迷惑かもしれない」
- 「私の気持ちは、後でいい」
- 「波風立てないほうが楽」
これは、持とうとしたときに傷ついた経験、あるいは持つこと自体を許されなかった環境から身についた感覚です。
その結果、
- 欲求を感じる前に引っ込める
- 違和感を感じてもなかったことにする
- 自分の選択がわからない
という状態になりやすくなります。
生きづらさの正体
この人の苦しさは、執着が多いからではありません。
そもそも「自分の感覚を持つ量」が足りていないこと。
ここで
「もっと手放そう」
「期待しないほうがいい」
「執着しないのが大人」
という言葉に触れると、回復の逆方向へ進んでしまいます。
この人に必要なのは、手放しではなく
- 気持ちを持ってもいい
- 欲しいと思ってもいい
- 選んでもいい
という“持つ許可”です。
2つは正反対ではなく、発達の位置が違うだけ
ここがとても大切なところです。
- 持ちすぎている人
- 持たなすぎている人
どちらが良い・悪いではありません。
心の成熟の中で、立っている場所が違うだけ。
そして多くの人は、人生の中でこの2つを行き来します。
- 持たなすぎる時期を経て、持てるようになり
- 持てるようになったあと、持ちすぎを調整していく
この循環そのものが、成長です。
いちばん苦しくなるポイント
最も苦しくなるのは、持つことが必要な段階の人が、“手放しが正解”だと思い込んでしまうこと。
自分にまだ必要なものまで、精神論で削ってしまう。
それは軽さではなく、空洞をつくります。
回復は「正反対のことをする」ことではない
持ちすぎて生きづらい人も、持たなすぎて生きづらい人も、必要なのは今までしてこなかった方向へ、少しずつ可動域を広げることです。
無理に真逆へ振り切る必要はありません。心は、急カーブが苦手ですからね。
① 持ちすぎて生きづらい人の回復の方向(降ろす・緩める・委ねる)
このタイプの人の回復は、「頑張らない練習」ではありません。
すでに持っている力を、適正な重さに戻すことです。
回復が始まるサイン
- すぐに答えを出さなくても平気になる
- 誰かの問題を「それはその人のもの」と感じられる
- ちゃんとしていない自分にも、呼吸が残る
ここで大事なのは、「できなくなる」ことではなく、やらなくても世界が壊れない体験を積むこと。
セッションで扱うポイント
セッションでは、
- 背負ってきた役割の棚卸し
- 「私がやらなければ」が生まれた原体験
- 感情を処理せず、感じ切る練習
を丁寧に扱います。
この人は、すでに“力”を持っているからこそ、許可が出た瞬間に、回復が早い傾向があります。
② 持たなすぎて生きづらい人の回復の方向(持つ・引き受ける・選ぶ)
こちらのタイプの回復は、「手放す」ではなく初めて“手に取る”体験から始まります。
回復が始まるサイン
- 小さな「嫌だ」がわかるようになる
- 自分の好みを、言葉にし始める
- 決めることに、少し緊張が出てくる
実はこの“緊張”は、とても健全です。
それは、主体性が目を覚ました合図。
セッションで扱うポイント
セッションでは、
- 感情を言語化する練習
- 「選んだあとに責めない」感覚づくり
- 依存と信頼の違いを体感的に整理する
ことを行います。
この人にとって大切なのは、上手にやることより、実感を持つこと。
自分の人生を、自分の手で持っている感覚が育つと、生きづらさの質が変わっていきます。
どちらも目指す先は同じ
回復の方向は違っても、行き着く場所は同じです。
それは、「自分の重さを、自分で感じながら生きられる状態」です。
- 抱えすぎず
- 投げすぎず
- 必要なものは持ち、不要なものは置く
その微調整が、自然にできるようになることです。
もし今、
- 手放しているはずなのに、楽にならない
- 軽くなろうとすると、空虚さが出る
- 逆に、頑張りをやめるのが怖い
そんな感覚があるなら、それはあなたが間違っているからではなく、今の段階に合わない処方を、一生懸命やってきただけかもしれません。
セッションでは、
- 今のあなたは「持ちすぎ」なのか
- それとも「まだ持てていない」のか
- どこがねじれているのか
を、評価ではなく理解として一緒に見ていきますよ。
あなたがこれまで持ちすぎてきたものにも、持てなかったものにも、ちゃんと意味があります。
どうか、「正しくなろう」とするより先に、「今の自分に合う重さ」を思い出せますように。
心が本来の呼吸を取り戻す道を、一人で探さなくてすみますように。
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